記事:広がった世界 〜元生徒が今、頼れる先生に〜
「最初に来たときは、寝っ転がって、一人でずっとスマホを触っていたんです」
スタッフのそんな回想から、彼の物語は始まります。
2023年の4月、Dream Treeがオープンするタイミングでやってきた彼は中学2年生でした。周囲と交わることはほとんどなく、居場所にしていたのはハンモックのある部屋とスマホの画面。言葉も少なく、まるで自分だけの世界に閉じこもっているようでした。
お母さんは「学校に行かなくなってからは、自分の部屋でほぼ寝たきりになってしまって・・・」「今はようやく生活リズムが安定して、体力も少し戻ってきたところです・・・」と不安げな様子。
そんな彼が少しずつ変わり始めたのは、1か月後のある日みんなで出かけた里山でのバーベキューがきっかけでした。火を囲みながら食べるご飯、自然の中で過ごす時間、ふとした笑い声。
バーベキューの日を境に、彼は少しずつハンモックの部屋から出てくるようになったのです。
次第に、友達と一緒にポーカーを楽しむ時間が増えていきました。口数は少ないものの、率先してカードゲームを仕切ろうとする真剣な表情。
それから、クッキング、運動、さまざまな活動にも自分から参加するようになり、彼の顔には、これまで見られなかったような表情が浮かぶようになっていきました。
「友達がいる環境って、楽しい」そんな気持ちが彼の中に湧いたように思いました。
自信がつき、体力もついてきた彼は、秋から自転車通学をはじめることになりました。自宅から風をきって自分で道を走る気持ちよさ。時には雨の日も、風の日もありますが、合羽を着てそんな日も頑張ります。
しかし、そんな「楽しい」日々にある「壁」がやってきました・・・
一番仲の良かった友達が、学校に再びチャレンジするようになりました。喜ばしいことですが、彼にとっては親友が、ある日突然、フリースクールに来なくなってしまったのです・・・
「寂しい」
という気持ちが沸き起こりました。
突然の別れに動揺しながらも、彼は「孤独」と格闘しながら、「友達がいることは、当たり前ではなく、幸せなこと」ということを痛感したようです。
彼はこの孤独を乗り越えつつ、また新しい環境にチャレンジした友達に刺激され、自分の進みたい道をしっかりと見つめるようになりました。
そして、興味のあった「プログラミング」を自ら調べて専門的に学べる高校を志望校に選びました。
スタッフと一緒に秋から毎朝面接練習を重ね、英語、国語、数学を交互に勉強し始めました。
本番では堂々と自分の言葉で熱い想いを伝えることができ、見事合格しました。
そして今――
彼は高校生となり、放課後の学習支援「学びーcafe」や学校の長期休みには母校である「Dream Tree」にスタッフとして戻ってきてくれています。
プログラミングを教える彼の姿は、あの頃の彼とはまるで別人のよう。小中学生の質問に優しく丁寧に答え、操作方法を分かりやすく教えてくれる姿に、頼もしさを感じずにはいられません。
さらに、教えるだけでなく、ドッジボールや遊びにも積極的に参加し、年下の子どもたちと一緒になって思いきり体を動かして笑い合っています。その自然体な優しさと親しみやすさに、子どもたちはすっかり心を開いています。
Dream Treeに通っていたあの日の彼が、今ではここで、誰かの背中をそっと押す側になっている。
成長の物語は、いつも静かに、でも確かに続いているのだと、彼の姿を見て改めて感じさせられます。
